色で自分を表現する
─それが塗装の醍醐味
塗装業界の仕事は大きく分けると、「土木塗装」と「建築塗装」の2つ。橋梁や鉄塔などを扱う「土木塗装」と比べて、「建築塗装」はお客さんとの距離が近い仕事です。「建築塗装」の仕事内容や仕事の流れ、求められるスキルについて聞きました。

取材協力:東京都塗装工業協同組合
常務理事
矢口 光一
塗装の仕事の種類
ひと口に「塗装」と言っても、扱う仕事はさまざまです。大きく分けると、橋梁などを扱う「土木系」と、ビルや住宅などの建物を扱う「建築系」がありますね。
「土木」の塗装をする人はずっと「土木」、「建築」の人はずっと「建築」 という具合に、一度、専門の分野を決めたら、滅多に変えません。両方やられている会社もありますが、うちは「建築」がほとんど。数人体制の専属の職人さんで、私の目の届く範囲で仕事をしています。先代の父の頃からの職人さんたちです。

窓枠などは丁寧な仕事が求められるところ。
「きれいに仕上がった塗装を見て依頼主からお礼を言われるときが一番嬉しい」
と職人は言います。
塗装の仕事の面白さ
設計から塗装に仕事が変わっても、戸惑いはありませんでした。小学生のときから父の仕事を小遣い欲しさに手伝っていたことや、設計の仕事をしていたときも現場には良く行かせてもらいましたので。
今、私自身は現場の先頭に立つわけではありませんが、それでも塗装という仕事の醍醐味は分かります。それは、自分の仕事が自分にも他人にも見えること。建築物を仕上げるのが塗装の仕事なので、「これは自分が仕上げたんだぞ」と自慢できますし、やりがいにもつながります。実際、職人さんたちも仕上げ切った建物に誇りを持っていますね。
意志を持って生み出た建物を、さらに色や模様によって表現すること。古くなった建物を、再生すること。それこそが塗装の仕事の魅力だと思います。

「お客さんから『ありがとう』と言われるときが、この仕事をやって良かったと思うとき」
と、仕事のやりがいを話す職人さん。

コミュニケーションも技能の習得も大切
もちろん、仕事なので難しいことはあります。特にこの業界に職人として入ろうとする人は、話すのが得意じゃなかったりする。実際、うちの職人も皆、無口な人が多いです。
そうは言っても、塗装の仕事は客商売。お客さんから要望が出ることがあります。最近はインターネットで簡単に情報を入手できるため、お客さんも驚くほど外壁の状況や塗料について詳しかったりします。
ですから、私たちもしっかり勉強しておかないといけません。その上で、お客さんの声に耳を傾け、「何を求めているんだろう?」と、お客さんの立場に立って考えられるようにすることが大事です。なんて、上から目線で話していますけど、私自身はコミュニケーションが苦手で、電話などの応対は全部、女性従業員(妹達)に任せてしまっています(笑)。
あとは、資格ですね。この仕事をこなしていく上で、塗装技能士の資格は必須です。塗装技能士の資格がなくても仕事はできますが、これからの時代、資格なしで信用を得るのは難しい。真面目に勉強すれば、誰でも必ず取れる資格ですから、塗装の世界をめざすなら、ぜひ一級塗装技能士の資格は取ってほしいですね。

東京に出てきて活躍する職人も多い塗装業界。
「福島出身です。東京に出て建築塗装の職人になって良かった」
と、職人は語ります。
自分の人生、自分色に塗っていこう!
このご時世ですから、塗装業界もご他聞に漏れず、人材を求めています。私が知る限り、残念ながら、若手の職人が増えている印象はあまりありません。
でも、塗装はほかの業種に比べて若手の職人は多い方だと思います。うちの職人も皆、毎年1歳ずつ年齢を重ねていって、そのまま高齢化しています。ですから、若い人にはどんどん入ってきてほしいですね。
ただ入ってくるだけじゃなく、長く働いてもらえるのが一番。一人前になるには時間がかかります。うちの場合でも、中卒で4年、高卒で3年を経験して、ようやく一人前となりますから。その間、熟練の職人のもとでジックリ腰を据えて、しっかり学び、確かな技能を身につけて、立派に独り立ちできるようになってほしいと願っています。
塗装の仕事は、自分が汗をかいてがんばった成果が目に見える仕事です。忍耐強く続ければ技術は必ず身につきます。飽きっぽいのはダメ。コツコツ丁寧にできる人にこそ、この仕事は向いています。ぜひとも塗装業界で、自分の人生を自分色に塗っていってほしいですね!